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介護をめぐる問題の一つに郷里に住む老親に介護が必要になったときのことがあります。和夫さんのお父様は現在86歳。5年前にお母様が亡くなり、以来、現在のホームに入所するまでひとり暮らしを続けていました。入所に至った経過をみていきましょう。

ある日、実家のそばに住む叔母から突然の電話「兄さんが入院した」
叔母様の話は次のようなものでした。お父様の様子を見に行ったところ、青い顔で「頭が重い」と言います。少しぐらいの体調の悪さなどおくびにも出さない気丈なお父様の気弱な様子。すぐに近所の比較的大きな病院を訪れ、念のためにCTスキャンを撮ったところ、なんと脳内出血がみつかったのです。聞けば叔母様が訪れる前日、畑で木に頭部をぶつけたとのこと。発見がもう少し遅れていれば危なかったところでした。
幸い、いのちに別状はありませんでしたが、後遺症のため日常生活動作にも不自由を来たすようになりました。
こうしたなか、和夫さんがまず考えたことはお父様との同居。しかし、狭い我が家に加え、妻も働いていることを考えると、すぐには実現できそうもありません。高齢になっての生活環境の激変は、お父様にとっても酷です。結局、80歳になる叔母様の、「元気なうちは私が兄さんをみるから」の言葉に甘え、和夫さんも土日を利用しては、新幹線で帰省して介護を続けながらお父様の回復に望みを託すことにしました。
ところが、そんな生活を1年ほど続けた頃、今度は叔母様が倒れてしまいました。和夫さん自身も肉体の限界に達しており、なんとかしなければと思っていた矢先のことでした。どうやってこれからお父様を支えていけばいいのか。和夫さんは身内だけの介護に限界を感じました。

地域に少ない在宅支援サービス考える間もなく老健施設へ
それまでも和夫さんは、ホームヘルパーなどの利用をそれとなくお父様に話してはいましたが、いつも強く拒否されました。しかし、事ここに至ってはお父様も渋々承知せざるを得ませんでした。早速、介護保険
の申請をし、ホームヘルプ、訪問介護、デイサービスを利用し、週末は妻と交代で帰省するというローテーションを組む計画を立てました。ところが、実家のある地域は高齢化率が高いにもかかわらず在宅支援サービスはあまり整っていません。和夫さんは途方にくれました。思いあぐね、実家の町のケアマネジャーに相談したところ、地域の老健施設(介護老人保健施設)を紹介されました。あまりにも急な展開でした。
和夫さんは翌日、ケアマネジャーに紹介された老健施設を訪れました。瀟洒な施設の外観。ところが一歩中に足を踏み入れて和夫さんは驚きました。昼食時と重なっていたため、広い食堂では100名近いお年寄りが食事をしています。居室棟は長い廊下の両側に部屋が並んでいます。和夫さんが想像していた老人施設とは大きくかけ離れていました。
「老人施設というのは家庭的な雰囲気の所だと勝手に思い込んでいたんですね。ところが、実際行ってみると、まるで学校か病院みたいな所で。でも、これは私が知らなかっただけで、もともと老健施設というのは家庭復帰のための一時的な施設だったんですね」とてもこんな所にお父様を入れることはできないと、再びケアマネジャーに相談したところ、他の施設はどこも満杯でとても入る余地はないとのこと。和夫さんは気乗りしないままにお父様と叔母様に相談しました。「兄さんと私はたった二人のきょうだい。そんな施設には入れないで」と涙ぐむ叔母様の姿がお父様を決意させました。「これ以上、お前たちに迷惑をかけること
はできない。大丈夫、住めば都よ」と、見学を経てお父様は自ら老健施設へ入所されました。

離れているはがゆさを乗り越えて
しばらくの間は面会に訪れる和夫さんを気遣ってか、「ここの生活もなかなかだ」と笑っていたお父様でしたが、3か月ほど経った頃から、「まわりがうるさくてかなわん」「職員が子ども扱いしやがる」などと頻繁に電話が入るようになりました。その施設では居室は4人部屋となっているため、プライバシーも保ちにくく、くつろぐこともできません。若い職員ばかりだというのも気にはなりました。そうしたことは入所に際して説明を受けていましたが、当時の状況では他に選択の余地はありませんでした。和夫さんはひとまず施設長に会うことにしました。
「おっしゃることはよくわかります。本当に申し訳なく思います。入所されている方の数に対して、職員の数が少なすぎるため労働過重となり、手も回らないという現状があり、市にもなんとかしてくれるように言っているんですが」と疲れた表情で正直に言われると、返す言葉もなかったそうです。その後、和夫さんのお父様は2か所ほど老健施設を移ったのち、現在のホームに落ち着きました。和夫さんは言います。
「離れて生活しているはがゆさを実感しました。介護にしても、単に物理的に手を貸すというのではなく、相手の気持ちに寄り添うことが大切なんですね。父を理解しているつもりだったんですが、ともに生活をするなかで『毎日こうやっていたんだ』『こんなことを考えていたんだ』なんてことが少し見えたような気がします」「施設選びにしても、いくつかの選ぶ基準はあるでしょう。本来なら、私が何か所か施設に足を運んで、ハード面もソフト面もきちんと把握したうえで選ぶことができれば、多少はスムーズに運んだのでしょうが。
でも、離れているだけに気持ちばかり焦って」あと数年で退職となる和夫さん。
今のホームには満足しているそうですが、一方で、できればお父様と一緒に生活をしたいとも考えていま
す。介護保険制度は必要なサービスが選べる、介護施設は自由契約で利用できる、というのがうたい文句のはずです。しかし実際は、自分の意思で施設を選ぶどころか、周囲の事情で施設をたらいまわしにされている現状もあります。それだけに、さまざまなニーズに対応しうる、利用者の立場に立ったホームが数多くできることが望まれます。

 
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